クライアントの希望とデザイナーの思い。
このお店はそれがマッチした貴重な仕事。
松原先生(以下、先生) このお店づくりは見えないところが本当に大変だった(笑)。西村さんが譲り受けた什器をどう使うか考えたり、予算は厨房機器が優先だし、デザインも私にすべておまかせだし!
西村さん(クライアント) 私はパン屋ができればいいし、石窯で焼くことや、やりたいことを話すだけ(笑)。デザインに関しては希望がなかった。
先生)まず条件。石窯を中心に考えて、その他の作業場の位置をそもそもの家のつくりに合わせながら決めていく。カウンターや喫茶コーナーは西村さんの話の中からヒントを探しながらデザインしました。
山本) カウンターが島の形にくり抜かれてかわいいです。どうやって考えられたんですか?
先生) 西村さんのご実家がある廿日市から見える江田島をモチーフにしているんですが、原画は西村さんがさらさらと書いたメモスケッチ。対面のカウンターをどうしようと考えていたときにスケッチを見て「これじゃん!」と。島の形ひとつで、「そら・うみ・だいち」の頭文字を合わせた店名の「souda!」をすべて表現できる。だから店のいちばんの見せどころであるカウンターを島の形にくり抜いてしまおうと。
西村さん) カウンターデザインは2案提案してもらったんですが、迷わず今のデザインを選びました、「すごくかわいい!」って。
岩本) 会話が生まれる対面販売に、このデザインが加わると会話がもっと弾みそうですね。島の人の協力と再生利用の建材で、やさしいお店づくりに。
先生) お店の機材は西村さんが譲り受けたものも多いですが、そのほかにも庭のアプローチは石窯づくりで余ったレンガと島の人からいただいたタイルを使っています。ま
た、デッキで使われている板は不要になった足場材です。モノの再生利用は、これからの社会人として優先的に意識してほしいですね。
大切にしたいことは、お客さまが喜ぶこと、
「無作為の作為」をデザインに取り込むこと。
光岡) 先生はいつもどんなことを考えてデザインされていますか?
先生) いちばん考えているのは「お客さまが喜ぶ」こと。私はあまり自分の好みを出さないように気をつけているんですけど、まずしっかりお客さまの要望を聞きますね。その要望に応える表現があって、そこにスパイス的に私の考えるデザインをひとつ加える感じです。
学生一同)あまりつくられた感がなくて、シンプルですよね。
三浦)今日はリモート授業ですが、ぜひ一度足を運んで実際のお店のデザインや厨房を見てみたいです。
先生)今回は住宅そのものや庭、立地、助けてくれる人々など条件が恵まれていた案件だったから、それらを活かそうと考えました。パン屋さんで畳の部屋っていうのはあまり見ないと思うけど、ここは今ある畳の上でお客さまにくつろいでいただくお店にしようと思いました。私は「無作為の作為」的なデザインができればいいと考えていて、仕事の中でいつもそれを探しています。
このお店は店主の個性や島という地域がら、手を加えすぎないほうがお店に来やすかったり、くつろげるのならあえてデザインをしない。というよりデザインしないことをデザインする、かな。みなさんも、これからできるだけたくさんのモノやコトを見て・経験して、お客さまと自分にとって満足できるデザインを見つけてください。
やりたいことを
みつけよう!